「盆のおわり」

 


 

 「お疲れ様」  

キュウリの馬は前方をモソモソ歩いているナスの牛に気付いて声をかけた。

「あ、馬さん」  

牛はゆっくりと振り向いた。

「仕事は無事に終わりましたか?」  

馬は牛に追い付いて聞いた。

「とりあえず」

「それはよかった」

「馬さんはどんな按配でした?」

「私は、そこの角のオダさんちの爺さんを乗せたんですよ」

「へえ」

「とにかく早く家に連れて行けって私のお尻をバシバシ叩きましてね、私は全力疾走しました」

「ほう」

「オダさんちには息子さん夫婦と婆さんが住んでいるんですが、嫁さんがキツい人で婆さんはツラい日々を送っているようでした」

「はあ」

「仏壇の前で遺影に手を合わせながら涙ぐむ婆さんの耳元で、爺さんは必死に何か叫んでましたが、婆さんは一向に気付かないんですよ」

「まあ、そんなもんでしょうな」

「爺さんは痺れをきらして部屋の壁に向かっていったかと思うと、そこにあった掛け軸を揺らしました。そしたら裏に張り付いていた物が下に落ちて……、さすがに婆さんは気がついて落ちた物を拾いあげました。どうやらそれは、爺さんが生前貯めていた預金通帳だったようです。婆さんは中の数字を見て、びっくりした後、微笑んでいました。あれだけあれば、もう息子夫婦の世話にならなくて済むんじゃないでしょうか」

「いい話ですね」

「牛さんの方はどうでした?」

「私が送ったのは、小さな女の子でした」

「幼くして亡くなったんですね、かわいそうに」

「中々、帰りたがらなくて手を焼きました。このままパパとママのそばにいるって泣かれまして」

「胸が痛みますね」

「そんなことをしても誰のためにもならないと言っても納得してくれんのです」

「ツラい話だ」

「だから私は提案しました。私が君の家の様子を見ているよ、そして君に報告しに行くよって。なるべくたくさん報告に来て欲しいと言って、女の子はやっと私の背中に乗ったのです」

「大変ですね」

「私は約束を守るために女の子の家に戻るところです。どれだけ身体がもつかわかりませんが、出来るだけがんばります」

「そうですか……」

「馬さんは、どちらに行かれるんですか?」

「海にでも行こうかと。夏が終わる前に」

「この時期はクラゲがでますよ」

「クラゲって?」

「さあ」

 立ち話をしていた馬と牛は歩き出した。わかれ道で互いに萎びてきたお尻を向けあった。

「じゃあ、ここで」

「お元気で」


 長い夜が明けようとしていた。




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