ぶん太の見かけは変わっていたので、小学校で仲間はずれにされていました。 ぶん太は音楽が大好きでしたが、誰も一緒に楽器を演奏したり、歌を歌ってくれたりしてくれませんでした。
ある日、公園に行くと、きれいな音楽が聴こえてきました。
音がするほうに歩いていくと、一人の黒人さんが楽器の演奏をしていました。
黒人さんは、じっと演奏を聴いていたぶん太に気付きました。
「これはね、ムビラっていう楽器なんだよ」
「ムビラ?」
ムビラ→
「そう、ジンバブエっていう国の楽器なんだ」
「どこにある国?」
黒人さんは、演奏していたムビラをぶん太に差し出しました。
「これを君にプレゼントするよ」
「えっ、いいの?」
「うん、上手に演奏できるように、がんばるんだよ」
「わかった! ありがとう!」
ぶん太はムビラを抱きしめて家に帰ると、さっそく自分の部屋で練習を始めました。
ところが、ぜんぜんうまく弾くことができません。
そのうちに指が痛くなってきて、ぶん太は練習をやめ、ムビラを部屋の隅っこに置いたまま、そのことを忘れてしまいました。
数日後、ぶん太が部屋にいると、
「ぶぅ〜……」
苦しそうな鳴き声が聞えてきました。どうやら部屋の隅に置いたムビラから聞えてきます。
ぶん太がそっと近づいていくと、
「演奏してよ、ぶぅ〜……」
確かに声が聞こえました。おそるおそるムビラを手に取り、裏返してみると、なんとそこには豚の顔がありました。
「ど、どうして豚の顔があるの?」
「そんなことより、早く演奏して、ぶぅ〜……」
豚は苦しそうでした。
「ぼくは演奏される音を栄養にしているんだ、ぶぅ〜……、このままだと消えてしまう、ぶぅ〜……」
豚を助けなくちゃ! と、ぶん太は演奏を始めました。でもやっぱりうまく弾くことができません。
「も、もっと上手に弾いて、ぶぅ〜……」
ぶん太は必死に弾き続けました。だんだん指が痛くなってきて、動かなくなってきました。
「もうこれ以上、弾けないよ……」
ぶん太の瞳には涙があふれてきました。
「もっと弾いて、ぶぅ〜……、もっと上手に、ぶぅ〜……」
ぶん太はムビラを胸に抱いて、部屋を飛び出しました。
公園に行くと、きれいなムビラの演奏が聴こえる方向に走っていきました。
「やあ、久しぶりだね」
ムビラを弾く手をとめて、黒人さんはぶん太を見ました。
「これを弾いて! 豚が大変なんだ!」
黒人さんはムビラを受け取り、きれいな音を奏で始めました。弾き終えて裏を見ると、豚は元気になっていました。
「はい」
黒人さんは、ムビラをぶん太に返しました。
「ダメだよ、ぼく、また豚を弱らせてしまうよ」
「これは君にプレゼントしたんだよ。だから君が責任を持たなくちゃ」
ぶん太はムビラを受け取りました。
「そうそう、一週間後に小学校の体育館で演奏することになってるんだ。その時に、君も一緒に弾こう」
黒人さんは言いました。
ぶん太は再び、ムビラの練習を始めました。
慣れてくると、指も痛くなくなり、少しずつきれいな音が出せるようになりました。
うまく演奏ができると、豚も元気になり、ぶん太とも仲良くなって、何故自分がムビラについているのか教えてくれました。
ジンバブエで豚として生きていた頃、遠くから聴こえてくるムビラの演奏を聴いているのが大好きで、
豚としての命が尽きる時、ムビラのきれいな音をずっと聴いていたいと祈ったら、
気付いたときにはこんなふうにムビラと一心同体になっていたのだと。
一週間後、生徒たちが体育館に集まり、小学校に招待された黒人さんがムビラの演奏を始めました。
みんな、聴き入っています。
一曲終わったところで、黒人さんがぶん太のほうを見て、
「一緒に弾こう」
と声をかけました。
ぶん太はおずおずと、こっそり持っていたムビラをバッグから取り出し、黒人さんのところに歩いていきました。
いつもぶん太を仲間はずれにしていた生徒たちは、不思議そうな顔で、その様子を見ていました。
黒人さんに合わせて、ぶん太が演奏を始めると、生徒たちの間にどよめきが起こりました。
「うまくなったね」
黒人さんが誉めてくれました。
曲が終わると、興奮した生徒たちがぶん太に近づいてきました。
「すごいね!」
「いつ覚えたの?」
みんな笑顔でした。
「今度、教えてよ!」
と言われて、ぶん太も、
「うん」
と笑顔で返しました。
「さあ、もう一曲弾こう!」
黒人さんが言って、演奏が始まると、みんな手拍子をしたり、リズムに合わせて踊ったりしました。
ぶん太も黒人さんも生徒たちも、みんなみんな笑顔でした。
演奏を終えて、ムビラの裏を見ると、豚も嬉しそうでした。
それから多くの生徒たちもムビラの演奏を覚え、その小学校では行事のたびに、
生徒たちによるムビラの演奏がされるようになりました。
ムビラのお陰で友達がたくさんできたぶん太は、ずっとムビラの練習を続けました。
ぶん太の演奏を聴くと、みんな喜んでくれました。
成長したぶん太はムビラの演奏をもっとたくさんの人たちに聴いてもらうため、旅に出ることにしました。
世界にひとつだけしかない、豚のムビラを抱えて――
おわり。
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