「おかしなふたり」

 


 

「思い出の店で話し合いをしましょう」

 と呼び出したのはマユミのほうだった。半年前、カズユキと最初のデートをした喫茶店で、あの時と同じカフェ

オレを注文して、マユミはかれこれ30分以上は待っていた。

「俺達、なんか違うと思う」

 とカズユキが言ったのは3日前。「なんか違う」というのは本能で感じ取る根本的な相性の悪さを表しているよ

うで、具体的に「どこが違うのか」をあげられるよりもリアルに心に突き刺さった。

 確かに2人は噛み合っていなかった。最初のデートの時、思いっきりオシャレなスーツでキメてきたマユミに

対して、カズユキは思いっきりカジュアルなTシャツとジーンズという服装だった。

 マユミの誕生日は2人で祝うはずだったのに運悪く残業になり、やっと終えて電話をしたらカズユキは寝てい

た。後日あらためてお祝いをしたが、カズユキはプレゼントも用意していなかった。

 誰にでも親切な人なのに、何故マユミに対しては気遣いが足りないのか。今だって別れるかどうかの大事な

話し合いをしようとしているのに、どうして時間通りに来ないのだ。

 1時間近く過ぎた。カフェオレもとっくに飲み終え、マユミはいたたまれなくなって伝票をつかんで席をたった。

会計を終えて外に出ると、いつのまにか大粒の雨が降っていた。傘をささずに飛び出す。顔に当たる水滴が

涙を隠してくれた。

 

「なんか違うと思う」と言ったのは、お互いに勘違いしてるんじゃないかという意味だったんだけど、マユミは血

相を変えて、話し合いをしたいと言い出した。

 今日はきちんと正装をして、1ヶ月前の誕生日に渡しそびれたプレゼントも今更ながら持ってきた。奮発して

買ったネックレスなんてガラでもないから照れ臭くて渡すタイミングを逸したのだが、今日こそ渡そう。

 しかしあの時のマユミの不機嫌さはひどかった。確かに約束しておいて眠ってしまっていたのは失態だったけ

れど、ちょうど仕事が忙しく徹夜続きだったから、ついうとうとしてしまったのだ。

 カズユキは既に1時間ほど待っている。思い出の店――誕生日を祝うため、2人で食事をしたイタリアンレス

トラン――の窓際の席に座り、コーヒーだけ注文して落ち着かない気持ちでいた。

 遅いな、と思いながら窓の外を見ると大雨が降っていた。そして、びしょ濡れになって走っていくマユミの姿を

見つけ、驚いて立ち上がった。


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